第1回 インドネシアから現地リポート

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柔道の魅力

第1回 インドネシアから現地リポート

第1回 インドネシアから現地リポート

Apa Kabar? アパカバール? (インドネシア語で「お元気ですか?」の意味)

 

ベトナムからの現地レポートに続き、インドネシア・ジャカルタから現地レポートを担当させていただきます沖田陽介と申します。
2023年11月からジャカルタに赴任し、早速ジャカルタ・ジャパン柔道クラブ(以下JJJC)での活動を行っておりますが、実はジャカルタには2011年から12年、17年から21年にかけて在勤の経験があり、今回で3回目の赴任です。
インドネシア以外にも、オーストラリアのキャンベラ、セントルシア(カリブ海の島国です)、スイスのジュネーブ、ベトナムのハノイでの留学または勤務経験があり、その全ての国で柔道を楽しんできました。ハノイで日本人柔道会を立ち上げたことは、前回の青柳さんによるベトナム現地レポートでも触れて頂いた通りです。

 

JJJCでは、30年以上前に青年海外協力隊員として派遣されて以来、一貫して当地における柔道指導に貢献されている安齋俊哉師範を中心に、毎週金曜日夜は北ジャカルタのクラパガディン道場、または南のラグナン体育学校にて、日曜日の朝は婦人警察官養成学校道場(SEPOLWAN道場)にて稽古を行っています。それぞれ数名の日本人柔道家のほか、金曜日の練習はインドネシアでもトップクラスの強化選手が、日曜日は地元の子供達を中心に数多くのインドネシア人選手と日本人小学生も集まり、活気に満ちた稽古が行われています。日曜日の稽古に参加しているメンバーの年齢層は、下は5才から上は70才代までと、体力的、技術的にも幅広い層が一緒に稽古に励んでいます。JJJC日曜稽古では、「明るく、楽しく、適度に厳しく」をモットーに、強い弱いに関係なく柔道を愛する者たちが通常15~30名程度、一緒になって稽古に精進しています。稽古には大多数のインドネシア人柔道家と5~6名の日本人柔道家、その他、韓国人、シリア人柔道家もレギュラー参加しており、国際色豊かです。また、現在講道館の指導員として活躍されている藤中先生も、青年海外協力隊員としてラグナン体育学校、そしてJJJCの稽古に参加されていました。(インドネシアの柔道事情全般については、講道館機関紙『柔道』令和5年12月号に掲載された安齋師範の文章に譲るとして、ここでは在留邦人とインドネシア柔道の関わり、JJJCの活動を中心に紹介したいと思います。)

 

そもそもインドネシアにおける柔道普及の歴史は戦後まで遡ります。インドネシア柔道普及の先駆者としては残留日本兵としてインドネシア人と共にインドネシア独立戦争を戦い、現在はジャカルタの英雄墓地に永眠されている牧野正一先生が柔道場を開かれました。その後、1970年代前半、東レのインドネシア進出の際に赴任された黒田憲一先生が長期に亘ってインドネシアでの柔道指導に当たられます。この時期に、現在バリ島で地元の青少年に柔道指導を通して人材育成をされている仙石常雄先生(当時警視庁所属)も国際協力基金からの派遣でインドネシアでの巡回柔道指導に当たられました。仙石先生はこの時のご経験から、インドネシアの貧しい子供達に柔道を教えたいという夢を持たれ、警視庁を定年退官された後、2007年6月に私費を投じて建設された仙石インターナショナル柔道ホールをオープンし、その夢を実現され、79才になられた現在も日々柔道指導を続けておられます。

 

そして黒田先生2回目のインドネシア赴任となった1980年代前半に、黒田先生が警察大学校での柔道指導に携わられたことで国家警察軍(当時)との関係が構築されます。その後、1988年より前述の安齋師範が青年海外協力隊のインドネシア初代隊員として、国家警察軍教育訓練局下の婦人警察官養成学校に派遣されることとなり、以降、約30年に亘り国家警察軍配属の警察官士官養成学校、インドネシア各州の警察官巡査養成学校を中心に、前述の藤中先生、畑谷大樹先生(拓殖大卒)まで、累計20名の青年海外協力隊員が派遣されました。柔道隊員は派遣された地域の警察学校の柔道教官、警察官候補生への柔道指導を行うと共に、その地域の柔道普及と強化にも貢献されています。

 

また、黒田先生の尽力により、東レグループの出資で西ジャワ州の避暑地チロトに柔道のナショナルトレーニングセンターが1991年に建設が開始され、1992年にオープンしました。250畳の広さを持つ大道場、トレーニング施設、座学用の教室、選手及びコーチの宿泊施設を併設した素晴らしいトレーニングセンターです。同トレーニングセンターの開館式には日本から山下泰裕先生が来イされ、コーチングクリニックを開催しています。その際に山下先生の受けを務められたのが東レ柔道部の緒方章宏先生です。その後、緒方先生は長期に亘りインドネシア駐在となりJJJCの稽古にも常連参加、卒業された天理大では主将も務められており、その実力と人望により、JJJCメンバーの精神的支柱として長く活躍されました。同トレーニングセンター開設後、1993年から1995年にかけて東南アジア大会に向けた強化とジュニア世代の選手育成を目的に、国際協力基金より富山県警から竹田聡先生が派遣され、ナショナルチームの指導に当たられました。その結果、1995年の東南アジア大会でも男女無差別級のチャンピオンを含む、多くのメダリストをインドネシアより輩出し、インドネシア柔道の強化に大きく貢献されました。ちなみに、前述の黒田憲一先生、仙石常雄先生、安齋俊哉先生は長年に亘る柔道指導を通した日イ友好拡大への貢献が認められ、外務大臣表彰を受けられています。

 

話をJJJCに戻します。その創部は1991年に遡り、東レの黒田先生が初代部長を務められました。そんな長い歴史を持つJJJCですが、日本人(親父)柔道家たちの目標は生涯柔道の探求、歳をとっても常に現役であることです。これはただ単に競技者としてだけではなく、それぞれの環境、レベルに合わせて稽古を行い、ライフワークの一つとして、健康長寿のため、柔道の稽古を継続することです。また自分達より若い世代と一緒に稽古することで、自分達の持っている技術を若い世代に還元し、我々自身も若い世代から学んでいくことでお互いが向上できる関係構築に努めています。毎年11月頃に開催されるジャカルタ・オープン大会は、生涯柔道を探求するJJJC親父柔道家達にとって、一つの目標となっています。2023年の大会では、JJJCより中学生の部に2名、成年の部(16才以上)に24~50才までの6名、計8名の選手を派遣し、成年の部に参加した6名全員が入賞するという活躍をしました。私はこれに加えて日本での高段者大会やベテランズ大会のために一時帰国するということをここ数年続けており、JJJCでもベテランズ大会で団体戦に出場することを将来の目標の一つとしています。また、最近では教本などを片手に、形の稽古も開始しました。

 2023年11月19日、ジャカルタオープン表彰式後のJJJCメンバー(クラパガディン柔道場)

 

毎週の稽古のみでなく、柔道を通じたインドネシアと日本の交流という点でも、JJJCは貢献を目指しています。2023年11月に開催されたジャカルタ・ジャパン祭りでは、その一環として、柔道教室がSEPOLWAN道場にて開催されました。笠原主将、太田主務による、それぞれ内股、巴投の技術指導に、地元の子供達も熱心に取り組んでいました。「主将」、「主務」といった役職が突然出てきましたが、JJJCでは主要メンバーに役職、つまり責任を与え、個々人が部の運営に積極的に貢献する体制をとっています。現在は小西部長の下、笠原主将、太田主務、坪田副主将がおり、私もジャカルタに戻ってからは副主将兼会計として部の運営に携わっています。このJJJCの運営体制は、私がハノイで柔道会を立ち上げる際にも大変参考となりました。

 

2023年ジャカルタ・ジャパン祭り柔道教室(SEPOLWAN道場)

 

なぜ役職まで与えて積極的に部の運営に関与しなければいけないのか、疑問に感じられる方もあるかと思いますが、毎週の稽古以外にもJJJCとして対応すべきイベントや来訪者が意外なほど多いというのがその理由です。

前述のジャカルタ・ジャパン祭りは毎年開催しており、2022年10月のイベントには日本のダイコロ社より一ノ瀬大暉選手、手柴宗一郎選手、小田春樹選手と吉薗勇太監督、松本秀作社長、三好伊知郎総務部長が来イされ、コーチングクリニックと合同稽古を行いました。

 

2022年10月ジャカルタ・ジャパン祭りダイコロ一行とJJJCメンバー(クラパガディン柔道場)

 

また、2023年8月に認定特定非営利活動法人のJUDOs(代表:井上康生先生/前全日本柔道チーム男子監督)より川戸まどかさんが来イされた際は、安齋師範がナショナルチームの日本強化合宿サポートのため不在だったこともあり、JJJCの主要メンバーで対応し、地元メンバーへの周知や、川戸さん一行の受入アレンジを行い、15着のリサイクル柔道着贈呈式を実施しています。他にも静岡の栗田徳光先生、富山の向吉嗣先生など、日本から定期的にJJJCを訪問し、中古の柔道着を寄付していただける方もいらっしゃいます。また、全ての方をここでは書ききれないのですが、日本からリサイクル柔道着の運搬を手伝ってくれる方や柔道関係のお客様が多数いらっしゃいますのでその際の受入対応等は結構な頻度になります。

 

2023年8月、認定特定非営利活動法人JUDOsの川戸さんとJJJCメンバー(SEPOLWAN道場)

 

川戸さんからJJJC代表にリサイクル柔道着の贈呈(SEPOLWAN道場)

 

その他にも2018年に当地でアジア大会が開催された際には、愛知県の東海中学・高校の先生2名、生徒4名が当地を訪問し、アジア大会の観戦とJJJCでの稽古に参加しています。縁が繋がるものですが、東海中高は私の母校でもあり、そして現在は東海中学から親御さんの都合でジャカルタに「留学」中の生徒1名がJJJCの稽古に参加しています。他にも新居浜高専から交換留学生としてジャカルタ市内の技術専門学校で学ぶ女子学生1名(2021、22年愛媛県女子重量級インターハイ代表)が毎週の稽古に参加しています。また、2023年5月にアディダスの派遣で瀧本誠先生(シドニー五輪81kg以下級金メダル)が、ナショナルチーム指導のため来イされた際、ジャカルタ市内での稽古後、JJJC有志メンバーで一席を設け情報交換をさせて頂いたこともあります。

 

そしてJJJCの活動の中でも特筆すべきは、おそらく世界でも珍しい、稽古納めと稽古始めを同時に行う、「年越し稽古」ではないかと思います。すでに10回を超える伝統行事となっており、2023/24年の年越し稽古も、SEPOLWAN道場に約70名が集まり、柔道をしながら新たな年を迎えました。遠く日本の北海道からも、ベテランズ大会等で活躍されている西岡将晴先生が急遽この年越し稽古に参加されました。夜23時から午前1時までの稽古を終えた後は、日本人柔道家が持ち寄ったプレゼント争奪の、恒例ラッキードロー大会で大いに盛り上がります。特に柔道着の景品は人気が高かったようです。

 

2023年大晦日から2024年元旦にかけて行われた年越し稽古

 

2024年、JJJCの目標は、東南アジアの日本人柔道会の交流練習会の実施です。私も設立に関わったベトナム・ハノイ日本人柔道会の他、タイ・バンコクにはJJJCのOBである松尾さんが活動している日本人柔道会があります。一度どこかで集まり大いに交流し、東南アジアにおける柔道普及に一層の貢献をできればと考えています。柔道家の皆様、ジャカルタを訪問される際にはぜひJJJCの稽古への参加もご検討ください。部員一同、歓迎いたします。

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