柔道と健康(全身を動かすことの効用)
生涯柔道の普及は大きく4つの視点で語ることが出来ます。1.教育、2.健康、3.競技、4.技術、です。
幼児から高齢者まで柔道をする目的は様々ですが、健康促進・維持と体づくりは共通したテーマと思います。健康はストレス発散と精神的な部分も包含します。
では、具体的に何故柔道の動きが体に良いのかを考えてみました。血管をとおる血液の循環によって酸素と栄養は体の隅々まで行き渡ります。一方で、リンパは老廃物を回収する役割を担っています。筋肉の動きによってリンパの流れは促進されます。すなわち、血液とリンパの流れは、健康にとってとても大切な仕組みなのです。
ということで、今回はリンパと筋肉の動きに注目して述べることにしました。全身の筋肉を動かすこと、受け身を取ることで体全体で重力を感じる事(適度な刺激を与える事)の効用です。
1.リンパのながれを促す
運動は血液の流れを促進することは知られていますが、もうひとつ筋肉を動かすことが、リンパの流れを促し、健康の維持につながるという効用があります。
リンパとは身体組織の間にある液体の一種で、リンパ管をとおして体中に行き渡ります。体内をゆっくり流れながら、リンパ節という関所(フィルターの役目)で、体内の細菌やがん細胞・異物・老廃物を排除し、体を守る役割をしています。リンパ節はひとの体全体で300〜600個あると言われています。
柔道は体全体を使うスポーツです。全身の筋肉を動かすこと、投げたり・投げられたししながら体全体に刺激を与えることで、血液とリンパの流れを促進して、それが免疫力を向上し健康増進につながると考えられます。試合とかの勝ち負けとは別の効用がここにあります。
また、四十肩、五十肩はその名前からのとおり、肩関節の骨・筋肉の老化に関係すると考えられています。肩こりは若い方でも発症し、原因は様々ですが主に、スマートフォンを使いすぎなどによる同じ姿勢の維持や運動不足もその一因でしょう。
2.体幹をつかう
体の不調は、全身の筋肉を使う柔道をして、普段動かさない筋肉もうごかすことによって改善できます。人間は生活の中で体幹を常に使用しています。さらに柔道となると、技や動きに応じて体幹を使います。
体幹とは簡単に言うと、手、足、頭を除く胴体部分のことで、具体的に言えば胸、腰回り、腹筋、背筋、お尻は全て体幹と言えます。柔道でも、日常生活でも体幹は非常に重要です。柔道ではすべての技に置いて、体幹が働いており、柔道をすることで、からだ全体の体幹を動かし鍛えることができます。体幹を鍛える効能としては、姿勢が良くなったり疲れが溜まりにくかったり、息切れしにくくなったりと、まさに日常に密着したメリットばかりです。
3.柔道の技と筋肉の動き
人の体は数多くの筋肉や筋が複雑に組み合わさっています。もう少し詳しく見てみましょう。
大外刈りを例にあげ、体幹以外でどういった筋肉を主に使用しているか、3つの動きに分けて図とともに示します。本来はこれらを一連の流れにして技を繰り出します。また、日常生活でこれらの筋肉はどういった場面で働いているのかを例に示します。
大外刈り(右組手の場合)
① 引き付ける(釣り手と引き手で相手の重心を片足に寄せる)
右手:相手の襟を持って釣り上げる:腕の筋肉(上腕二頭筋、円回内筋)、手首の筋肉(橈側主根屈筋、尺側主根屈筋、長掌筋)
例)重いものを持ち上げる
左手:相手の裾を引き寄せる:肩と胸の筋肉(三角筋屈曲、大胸筋伸展)背中の筋肉(僧帽筋屈曲)
例)ドアを開ける、机の引き出しを引く
② 相手の右側に踏み込む
右足:足を前方に伸ばす:太ももの筋肉(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)、腰の筋肉(腸腰筋)
例)歩行やランニングで地面を蹴り上げる時
左足:自分の体重をつま先立ちで支える:ふくらはぎの筋肉(腓腹筋、ヒラメ筋)
例)つま先で体重を支えている時、歩行やランニングで地面に足を着地させてすぐの時
③ 左足を支えにして右足で相手の右足を刈り上げる
右足、左足は②の筋肉をさらに負荷をかけて使用しています。
(同時に体幹部を含めた体全体の筋肉を使用し、バランスを取ります。)
監修 西島恵里奈(看護師)