人と柔道を考える ②

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柔道の魅力

人と柔道を考える ②

人と柔道を考える ②

言葉が人をつくる

前回は人の進化と、身に付けてきた習性について述べました。群れをつくり生きることで、様々な困難を乗り越えてきました。

私たちの祖先(ホモサピエンス)は、400万年前にアフリカで誕生し、アフリカを離れ長い時間をかけ移動し活動範囲を広げました。グレート・ジャーニー(人類の偉大なる旅)と呼ばれ、最新の科学技術を使い発掘された化石や遺伝子のレベルにまで及ぶ解析の結果から、その子孫がやがてユーラシア大陸の端にある日本列島に到達したと考えられています。日本列島へ到達するには、北からと南からの2ルートがあったことも分かりました。

成功の鍵は、集団生活・生きるための工夫(狩りの道具の発明)・栄養豊富な肉を食べることで脳の発達が促されたことにあります。狩りの場合、獲物の群れに向かって槍を投げ、傷ついた獲物を集団で追いかけ仕留めるという手法です。どんな動物も長距離走ではヒトに敵わないそうです。驚くことに動物の骨を加工して、槍をひっかけて遠心力を使い遠くに投げる道具を生みだしています。北方に住んだ集団は精巧な縫い針を作り、寒さを防ぐために動物の毛皮を縫い合わせた防寒具を身に付けていました。

また、大陸では歯の無い高齢者の頭蓋骨が発見されました。仲間から柔らかい食べ物が与えられていたと考えられ、既に介護の心を持っていたことが窺えます。ある洞穴には集団生活を営んだ形跡、何かの儀式が行われていたことを想像させる壁画も見つかっています。原始的な宗教を通じ、集団をまとめていたとも考えられています。集団生活で情報の共有は、新たなアイデアの創生につながっていったと思いました。 出典:NHKスペシャル「人類誕生」を参考にしています。

さて、ここからヒトとしての本題に入ります。京都大学名誉教授 大島清先生の言葉をご紹介します。
「「学力」の源は「言葉磨き」、言葉は意思の伝達手段としてのみ存在するに非ず、感じる手段でもある。だから、人間を人間たらしめているのは言葉であり、人間は読み書き能力を磨いて「自己」を作りあげてゆくのである。」

「人間と宗教」あるいは日本人の心の基軸 寺島実郎氏の著に、ヒトゲノム解読の衝撃という目次があります。以下はその一部です。
「ヒトとチンパンジーのDNAの差は約2.3万の遺伝子のうちわずか1.2%、個体差を調整すると1.06%にすぎない。この1.06%の差は、どうも「言語・意思疎通に関わる能力」であるらしい。人間が人間である理由は言葉で知識を伝え学んだことを記録・記憶し世代を超えて伝承することだ。」 
言葉と意思の疎通がとても大切ということで、これは特に子供たちの教育・指導をする上で常に意識すべきでしょう。


続けて、京都大学名誉教授 大島清先生 脳の発達に不可欠な「言葉」と脳の臨界期より「10歳までの期間の重要性」を参照します。
「人間を人間たらしめ,人間脳の発達に必要不可 欠な要素はなんといっても「言葉」である。進化の果てにようやく獲得した人間脳をまっと うにするには,言葉によって思考し,計画を立て,それを実行するかどうかの判断をしなけ ればならない。


不思議なことだが,人間の幼児も二足歩行ができる時期に一致して,意味のある言葉をし ゃべりはじめるのである。つかまり立ちから直立二足歩行を始めるまでには「バブバブ」と か「ダア」とかいった無意味な発語しかできなくても,言葉の理解はかなりできるようにな っている。この間も母親や周囲から絶え間なく妥当な言葉の刺激さえ与えられていれば,遺 伝子によって,着々と言語脳ができるように仕組まれているからだ。  

18世紀ドイツの言語学者・カール・フォン・フンボルトがいみじくも「人間は言葉によっ てのみ人間である」と語った通り,言葉なくしては思考も哲学も生まれない。そういう役割 を担っているのが人間脳のソフトウェアと呼ばれる,大脳の前方3分の1を占める前頭連合 野である。ここの神経支配が一応の完成をみるのが,前述したように10歳。私が常々,子ど もは10歳で「人間になる」と言っている所以である。  

もう1つ大切なことは,言語獲得のための脳の臨界期があるということだ。これまでの野 生児などの研究から,社会から隔離されていた小児が11~13歳で発見されたあと,言語の獲 得がきわめて困難であることがわかっている。この点からも,10歳までの期間がいかに重要 かおわかりいただけることと思う。」  京都大学名誉教授 大島清 

以上から、「人と柔道」と題しましたことを何となくイメージいただけると思います。10歳は小学校4年生にあたります。すなわち、小学校入学前から小学校4年生にかけて、言葉の習得・意思の疎通の学習、がとても大切ということです。この期間は、健康で丈夫な体の基礎づくりとかさなります。柔道の教育的な部分を意識し実践することで、子供たちが潜在的に持っている無限で多様な可能性を、良い方向へ引き出すことが出来ると考えています。人づくりの基礎となる柱の礎となる部分です。

身体の成長と運動の進化図
出典:子どもの身体の成長過程と足の特徴|株式会社アシックス

私の知る道場では、子供向け指導に柔道に加え言葉教育を取り入れています。ひとつは「実語教」の音読(声を出して読むこと)を実践しています。先日、都立小学校の副校長と一緒に見学したのですが、ほとんどを諳んじていることに驚きました。社会生活に有益な教えの音読と、安全を最優先とした体づくり(運動)の実践に大きな可能性を感じています。

「己を完成し世を補益する人をつくる」ことにつなげていきます。ご期待ください。
- 続く-
 人と柔道を考える ① (tojuren.or.jp)

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