体さばき
体さばきは、技を掛けるときや相手の技に対応する際に使う、重要な体移動の方法です。技を掛けるときは、紹介するそれぞれの体さばきを使い、技に入るのに都合の良い場所に体を移動させながら、相手を崩して掛けるようにします。相手の技に対応する際も、軽快な動きで相手より速く動いて体をさばきましょう。体さばきには、代表的なものとして「前さばき」・「前まわりさばき」・「 後ろさばき」・「後ろまわりさばき」があることは、これまでに紹介してきました。「お役たち情報⑩」では、公式な用語ではありませんが、「振り子さばき」についてご紹介します。
振り子さばき
今回ご紹介するのは、これまでに紹介した体さばきを基本とした上で、ちょっと工夫した体さばきの方法です。相手に押されて後方に下がる時、今回ご紹介する「振り子さばき」の体さばきを使うと、より効果的に技を掛けることができます。ちなみに、「振り子さばき」は私の造語で公式な名称ではありません。ご了承ください。なお、「前回りさばき」「後ろ回りさばき」の説明は、今回割愛させていただきます。
「振り子さばき」は、右自然本体で向かい合い右組に組んだところから、相手に押されて後方に下がる際、右足を少し速く大きめに退いて後方に着き、左足を振り子のように使って左のほうに向きを変えながら体を180度回転させて体をさばく方法です。最初に下げた足は、相手の体の中心線の延長上に着き、回転した後は、その位置が両足の真ん中になるよう回転すると、相手としっかり重なることができます。今回は背負い投げで説明していますが、掛ける技によって、最初に下げる足の位置を調整しましょう。振り子を大きくすると引き出す力は強くなりますが回転速度は遅くなります。逆に振り子を小さくすると回転から得られる力は小さくなりますが、回転のスピードは上がります。相手のタイプにあわせて振り子の大きさを調節することで、より効果的な技を掛けることができます。少年期には、体を回転させて掛ける技の場合、「前まわりさばき」で覚えることが多いようです。これは、力の弱い少年期には、相手を大きく引き出して技に入る「後ろまわりさばき」が難しいためだと考えられます。しかし、成長していくにつれ、「前まわりさばき」でしか技に入れない選手は、技が掛からなくなっていきます。特に、外国選手と対戦する場合、相手の手足が長く力が強いため技が届かなかったり、返されたりすることが多くなります。子どもたちの柔道がずっと成長し続けていくことができるよう、「前まわりさばき」→「振り子さばき」→「後ろまわりさばき」と段階的に練習させると良いでしょう。オリンピック60kg級3連覇の野村忠宏選手は、小学生の頃は体も小さく、女の子に負けることもあったそうです。しかし、当時指導していた先生は決して妥協することなく、「後ろまわりさばき」による技の入り方を徹底して練習させたそうです。野村選手の外国選手に対する絶対的技の冴えは、この頃の稽古で培われたといっても過言ではないでしょう。 指導において辛抱の足らない私たちが見習わなければならない姿なのかもしれません。
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