東京都柔道連盟 「お役立ち情報③」では、講道館少年部・春日柔道クラブで行ってきた各種トレーニングについてご紹介させて頂きます。
子どもたちは、苦しいトレーニングはあまり好きではありません。少しでも楽しく行わせるためにトレーニングに動物やキャラクターの名前を付けたりする工夫を行いました。今では、スポーツ庁や全日本柔道連盟が推奨する「ACP(アクティブ・チャイルドプログラム)」の走りと言えるかもしれません。
どんなに良い指導をしても、子どもたちに基本的な体力・運動能力がなければ、
技等もなかなか身に着きません。飽きさせず、やるきにさせるトレーニングを考えてきたつもりです。少しでも、皆さんの役に立てば幸いです。
映像は、サーキットトレーニングⅠ・体さばきトレーニング(固技Ⅰ)・一人打込み&トレーニングの3つを載せてみました。他のトレーニングについても、講道館オフィシャルYouTubeで公開していますので、是非ご参照ください。
講道館少年部において、練習会場が狭い場合・時間が短い場合であっても効率よく、トレーニングができるように考えて実施しているトレーニングです。全日本女子強化コーチをしていた時、選手によく行わせていました。強化選手が行う場合は、種目の並べ方・時間・セット数など強度を強くして行っていましたが、少年柔道用に並べ方を変え、試合前のウォーミングアップとして使うことも考え、時間は20秒~30秒を基準としました。(20~30×⑩=200~300秒、小学生・中学生の試合時間+α) 前半部分のステッピング・ジャンプ系で息を上げ、中盤以降のバーピー・腰入れを苦しさのピークとして考えています。最後の筋力系は、息が上がってきた状態であっても
筋力が発揮できる強さを求めています。「終盤、苦しくなって抑え込まれてしまった。ここで、腹・背筋が使えれば逃れることができるぞ!」等と声掛けしながら実施しています。
新型コロナウィルスの影響による稽古自粛からの再開時、最初は1種目を10秒で実施していました。それでも苦しそうにしていた子供たちでしたが、1か月後には平気な顔でこなせるようになってきました。皆さんもぜひ使ってみてください。
・サーキットトレーニングⅠ (20秒~30秒基準・単独)
① ステッピング
② 腿上げ
③ 抱込みジャンプ
④ 横跳び
⑤ サイドステップ
⑥ バーピー
⑦ 腰入れ
⑧ 腕立て伏せ
⑨ 腹筋
⑩ 背筋
固技における基本的な動作と体さばきを学ぶことができるトレーニングです。一つ
一つの動作を正確に行い、種目の変更がスムーズにできるように練習しましょう。
このトレーニングは、練習会場が狭い場合・時間が短い場合であっても効率よく、
トレーニングができるように考えて実施している固技トレーニングです。固技の攻
防において必要な動きの中から10種目を抽出して実施します。命名が古いですが、
ラッコのようにあお向けになり両手両足を上げて行うワカチコ(仰向け、頭と両足を
上げ腋締)から始まり、手の動作中心のものと足の動作中心のものを交互に並べました。
腰切り(滑り込み)、頭倒立 → 左右跳ね起きをピークとして考えています。固技の
攻防において必要な動きには、まだまだたくさんの種類があります。さらに新しい動
作を取り入れ、取りバージョン・受けバージョンを作ってみるのも面白いのではないで
しょうか。
・体さばきトレーニング(固技Ⅰ 20秒~30秒基準・単独・左右)
① ワカチコ(仰向け頭と両足を上げ腋締)
② 足蹴り
③ 肩ブリッヂ
④ 足回し
⑤ その場エビ
⑥ 時計
⑦ 腰切り(滑り込み)
⑧ 頭倒立 → 左右跳ね起き
⑨ 頭ブリッヂ(手を頭の横に置いてOK)
⑩ 大きく足交差(上体が起き上がる)
基本的な体捌きとトレーニングを組み合わせました。より柔道の動きに近づけるととも
に筋力・パワー・持久力をつけることを目的に行います。足捌きだけでなく、手・肘・肩等
の使い方に注意しながら正確に体捌きをしましょう。体力トレーニングも気を抜かずに行
うと、より効果が高まると思います。
前半部分のステッピング・ジャンプ系で息を上げ、バーピーで一度ピークを作ります。
息が上がってきた状態であっても後半の筋力系をしっかり行い、最後にもう一度ピークを作り、力を出し切って終了するように考えて構成してあります。
自転車のゴムチューブを使い距離をとって行う打込みとトレーニングを組み合わせると
さらに強度を強くすることができます。ソーシャルディスタンスをしっかり取りながら、
より柔道の動きに近づけ、筋力・パワー・持久力の増大を目的に行いましょう。
一人打込み&トレーニング(一人打込み-左右)
① 一人打込(足払その場)→ ステッピング
② 一人打込(大外刈)→ 抱え込みジャンプ
③ 一人打込(足払横移動)→サイドジャンプ
④ 一人打込(背負投前回り)→サイドステップ
⑤ 一人打込(つばめ返し) → バーピー
⑥ 一人打込(内股) → 腕立伏せ
⑦ 一人打込(体落後回り) → 腹筋
⑧ 一人打込(背負投振り子)→ 背筋
⑨ 一人打込(大内刈)→ スクワットジャンプ
⑩ 一人打込(足払後ろさばき) → 腿上げ
基本的な体さばきとともに技の入り方を同時に学ぶことができるトレーニングです。
打込み&トレーニング(二人組・チューブ利用)
① 打込 → ステッピング
② 打込 → 抱え込みジャンプ
③ 打込 → サイドジャンプ
④ 打込 → サイドステップ
⑤ 打込 → バーピー
⑥ 打込 → 腕立伏せ
⑦ 打込 → 腹筋
⑧ 打込 → 背筋
⑨ 打込 → スクワットジャンプ
⑩ 打込 → 腿上げ
足の捌きだけでなく、手の使い方等も併せて練習しましょう。立技を行う場合の基本的な体捌きをトレーニングにしました。講道館少年部で最も大切にしている足技から始め、後半は手技、最後に足技→手技で終わる配置にしました。主に腰の作用で投げる腰技は、相手の荷重が必要と考えあえて採用しませんでした。また、子供たちに人気の技である背負投を3種類の体捌きで入る練習を入れてあります。公式には、「前回り捌き」と「後ろ回り捌き」なのですが、移動打込の時によくやっている「軸足を先に下げ、その足を中心に回転する(俗名-振り子捌き)」も採用しています
単独で行うことのできる体捌き練習は、リラックスしながら足・手の先まで神経を配って行うことが大切です。「足払の足の小指、手首・肘・肩等の使い方」・「できるだけジャンプをしない」等の注意をしながら行うと良いと思います。
また、このトレーニングがうまく行えるようになれば、次のステップとして単独で行う
シャドウ打込み → シャドウ乱取を行うことも可能になってきます。私が選手の頃は、世界
選手権を4連覇された藤猪省太先生のシャドウ打込み → シャドウ乱取をビデオで見てよ
く真似したものです。
・体捌きトレーニング (20秒~30秒基準・単独・左右)
① 足払い(その場)
② 足払い(横移動)
③ 足払い(後ろさばき)
④ つばめ返し
⑤ 一歩踏み込んで → 大外刈
⑥ 前回りさばき → 背負投
⑦ 後ろ回りさばき → 背負投
⑧ 後ろ回りさばきⅡ(振り子捌き) → 背負投
⑨ 前回りさばき → 内股
⑩ 後ろ回りさばき → 体落
固技における基本的な動作と体さばきを学ぶことができるトレーニングです。ショートバージョンとロングバージョンがあります。号令に合わせて素早く動作しましょう。足し算・引き算・掛け算等を入れて号令をかけると楽しく頭のトレーニングにもなります。あらかじめ、トレーニングの番号を決めておき、その番号に合わせた動作を行わせます。順序良く行うだけでなく逆に数えたり、アトランダムに号令をかけるとおもしろいと思います。
その時の状況に合わせて、ショートバージョンとロングバージョンを使い分けましょう。
・体さばきトレーニング(固技Ⅱ 赤はSV号令に合わせて・単独・左右)
① リラックス(うつ伏せに寝る)
② 両足を開き、両手を胸の前について状態を起こす
③ ②の状態のまま、左膝を曲げる
(腰が上がらない、膝・足の内側が畳につく)
④ ②の状態のまま、右膝を曲げる
⑤ ②の状態から、右足を前に滑り込ませる
⑥ ②の状態から、左足を前に滑り込ませる
⑧ 時計(右回転・左回転)
⑨ ②の状態のまま、両足を左にクロス
⑩ ②の状態のまま、両足を右にクロス
⑪ うつ伏せで大の字に寝る
「子どもたちに柔道を楽しいものだと思ってもらいたい」、そして「長く柔道を続けてほしい」というのが、講道館少年部の指導に当たらせて頂いている私の一番の願いです。子どもたちに柔道を楽しいと思ってもらい、好きになって長く続けてくれなければ、柔道の本当のすばらしさを体感させ、伝えることもできないと考えています。また、東京の子供たちは、環境的な問題で自然に生活しているだけでは、丈夫になり、筋力・体力がつくということは考えられません。柔道をやることで、病気や困難に負けないたくましい体と強い心を育ててほしいと考えています。私の考える練習法の根底にはこの思いが強くあり、日ごろの練習で繰り返し行っているトレーニングも「ゲーム的な要素を取り入れた柔道遊び」、「動物やキャラクターの名前をつけたトレーニング」、「ダンス的な要素を使った崩し、作り、掛け」といった内容が中心となっています。特に、このトレーニングは、講道館の道場の広さを十分に活かし、移動を伴う基礎体力養成のトレーニング法として日によって内容を少しずつ変えながら毎日行っています。楽しみながら柔道に必要な筋力・体力をつけて行きましょう。
移動を伴う基礎体力養成のトレーニング法 - 単独動作
① アニマル - 四つん這いの状態で、獣のように前進後退
② カエル - 四つん這いの状態から、両手両足を交互に着き前進後退
③ クモ - 上向きで両手両足を着き、前進後退
④ カンガルー - 両手を振り両足跳びで前進後退(膝の角度90度)
⑤ 忍者 - 両足で踏みきって飛び180度回転して着地(左右の背負投)
⑥ アザラシ - 腕立ての姿勢で腕を交互に進め前進後退(足は伸ばす)
⑦ ゴリラ - 蹲踞の姿勢から手は着かず、足を交互に進め前進後退
⑧ トカゲ - ワニやトカゲのように畳を這うように前進後退
⑨ キョンシー - 両手を胸の前に伸ばし足首の力でジャンプし前進後退
⑩ ケンケンシリーズ - 普通の前進後退だけでなく、大内・小内、大外刈、内股 等
仲間と行う動作
① ムカデ - ゴリラの姿勢で前の人の後ろ帯を持ち前進後退
② 馬跳び - パートナーが馬を作り、跳んだら馬を作り、繰り返して前進
③ 丸太跳び - 複数の人がうつ伏せに寝ているところをジャンプで前進
(両足跳び、ケンケン等)
④ 箱跳び - パートナーが亀になり、跳んだら亀になり、繰り返して前進
⑤ トンネル - 足を開いて立ち、その間をくぐって立ちを繰り返して前進後退
講道館少年部において、練習会場が狭い場合・時間が短い場合であっても効率よく、トレーニングができるように考えて実施している二人組のトレーニングです。筑波大学で女子コーチをしていた時、選手によく行わせていました。大学の選手たちにやらせるときは、強度を強くするとともに毎回タイムを測定し、タイム短縮を目標に行っていました。少年部では、1種目20回~30回を基準に1・2セット(4~8分)で行っています。指差しダッシュはバトミントンの練習法から考えたものですが、柔道に生かせるように体は前に向けたまま、足が交差しないように注意して継足・すり足で行いましょう。(場所が狭い場合は、バーピーの上下を入れても良い)一つ一つの動作が、正しく行えているかを互いにチェックしながら行いましょう。
サーキットトレーニング ― 二人組
① 足持ち腕立て
② 馬跳び股くぐり
③ サイドジャンプ
④ 指差しダッシュ
⑤ おんぶスクワット
⑥ 懸垂
⑦ 足上げ腹筋
⑧ 背筋
⑨ 腕引き(平行)・腕引き(クロス)
⑩ 腕引き(袖釣り・腕時計)
このトレーニングは、講道館の道場の広さを十分に活かし、移動を伴って二人組で行なう基礎体力養成のトレーニングです。道場の端から端までを使い、一往復を基準に行っています。(低学年や動きの遅い者は、片道)
二人組で行うことで、協調性や息を合わせることの大切さを学ぶとともに柔道に必要な筋力・体力をつけることができます。勝手に距離を短くしたり、回転してやる距離を短くしたりしてさぼる者が出てきますので、互いに注意しながら行いましょう。
移動トレーニング ― 二人組
① おんぶダッシュ
② 手押し車
③ 馬跳び
④ 股くぐり
⑤ 人間腕引き
⑥ ムカデ
⑦ 足持ちケンケン
このトレーニングは、講道館の道場の広さを十分に活かし、移動を伴って二人組で行なう基礎体力養成と技術力向上を目指して行うトレーニングです。勝手に回転して距離を短くしたり、歩いたりしてやる距離を短くしたりしてさぼる者が出てきますので、道場の端から端までを使うよう厳しく注意しましょう。打込みが最も大切な部分です。いいかげんな打ち込みではトレーニング効果が上がりません。しっかりとした打込みに加えて、ダッシュ・各種トレーニングを行うことで相乗効果が生まれます。また、時間を調整したり種目を増やすことで強度を高めることができますので、対象者に応じて工夫しましょう。(20~30×⑩=200~300秒基準、小学生・中学生の試合時間+α)
打ち込みサーキット ― 二人組
① 打ち込み⇒ダッシュ⇒タッチ⇒手押し車⇒馬跳び
② 打ち込み⇒ダッシュ⇒タッチ⇒カエル⇒腿上げ
③ 打ち込み⇒ダッシュ⇒タッチ⇒カンガルー⇒足持ち腕立て
④ 打ち込み⇒ダッシュ⇒タッチ⇒忍者⇒サイドジャンプ
⑤ 打ち込み⇒ダッシュ⇒タッチ⇒ゴキブリ⇒腕引き
⑥ 打ち込み⇒ダッシュ⇒タッチ⇒ゴリラ⇒スクワットジャンプ